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アメリカ国家が捧げる祈り──中国・韓国の靖国参拝批判に反論する その2 [靖国問題]

以下は斎藤吉久メールマガジン(2013年4月23日)からの転載です


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アメリカ国家が捧げる祈り
──中国・韓国の靖国参拝批判に反論する その2
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 アーチを描いた高い天井と美しく輝くステンドグラス。正面には巨大な十字架。世界で六番目の規模を誇り、年間八十万人が礼拝に訪れる広大な大聖堂に、陸軍オーケストラが奏でる「ゴッド・ブレス・オブ・アメリカ」が響き渡るなか、儀式は始まった。

「神は私たちのすべての罪、そして苦しみを御存知です」。今年八十四歳になる、全米屈指のテレビ伝道師として熱狂的な支持を得てきた、バプテスト派のビリー・グラハム師は、数千人の参列者にそう語りかけた。

 説教に続き、演説のために席を立ったのは、ジョージ・ブッシュ大統領だった。大統領は「世界中からテロを撲滅する」と宣言したあと、こう締めくくった。「我々の国に神の導きがあらんことを」──。

 昨年九月十一日にアメリカで起こった同時多発テロのあと、世界中が注視するなかで、「テロ犠牲者を追悼し、祈りを捧げる儀式」が、アメリカの首都ワシントンの市街地を見下ろす丘の上に建つ、ワシントン・ナショナル・カテドラルで開催され、ブッシュ大統領をはじめ、歴代大統領や政府高官が国家的な祈りを捧げた。

 このカテドラルとはいかなる施設なのか。そこで行われた儀式とはどんなものだったのか。同カテドラルに取材した。


◇テロ犠牲者追悼式に大統領参列

 同カテドラルはアメリカのかつての宗主国・イギリスのエリザベス女王を首長とする英国国教会の大聖堂である。

 そのカテドラルで、ホワイトハウスからの依頼により、「テロ犠牲者を追悼し、祈りを捧げる儀式」が催されたのは事件から三日後、昨年九月十四日のことだった。

 儀式にはユダヤ教やイスラム教など他宗教の代表者らも参列した。

 軍楽隊の演奏と英国国教会ワシントン司教の先導で始まった儀式は、途中、イスラム教の宗教指導者ムザミル=シッディッキ師による祈りなどを織り交ぜながらも、パイプオルガンの演奏から讃美歌の斉唱、第二の国家「麗しきアメリカ」のソプラノ独唱、聖書の朗読など、基本的にキリスト教の形式に則って進められた。

「神への信頼こそがすべての根源です」と説教したグラハム師は、国教会とは宗派が違うが、政府の依頼を受けて参加した。

 ブッシュ大統領はカテドラルの聖職者に紹介された登壇。「全能なる神が常に我々を見守ってくださるよう祈ります」と演説し、最後に「アメリカに神の御加護を」と祈りを捧げた。

 そののち、大統領を含む参列者全員が「共和国の戦いの讃美歌」を大合唱して、追悼式はクライマックスに達した。


◇「国家的目的に使用される教会」

 同カテドラルの歴史は古い。

 およそ二百年前、独立戦争後間もない頃の政府建設計画のなかに「祈り、感謝、葬儀などの国家的目的に使用される教会」として創建されることが予定されていたのが、このカテドラルだ。

 紆余曲折を経て、議会で建設用地借り上げが決定され、一九〇七年に定礎式が行われた。千人を超える参集者が歓声を上げるなかで教会の建設を宣言したのは、日露戦争の停戦を仲介した功績でノーベル平和賞を受賞したことで知られるセオドア・ルーズベルト大統領だった。

 六十五年後に行われた聖堂外陣の完成式典にはニクソン大統領のほか、はるばる英国からエリザベス女王、英国国教会カンタベリー大司教らが出席している。

 創建以来、同カテドラルは「全国民のための教会」として「偉大な業績を讃え、多大な損失を悼むための儀式場」という役割を果たしてきた。

 セオドア・ルーズベルト大統領以降、すべての大統領がこの場所を訪れている。定期的に同カテドラルで礼拝し、自身が信じるキリスト教の神に祈りを捧げてきた大統領さえいる。

 また、ベトナム戦争などで命を落とした国家的英雄のために軍の代表者が祈りを捧げる特別の儀式も行われている。

 さらに、同カテドラルは、「公式」ではないが、同じくワシントン特別区にあるアーリントン国立墓地とも緊密な関係を保っている。戦死者の葬儀が同カテドラルで行われたのち、アーリントンに埋葬される例も多い。

 今回の儀式は、ホワイトハウスの依頼により、同カテドラルの主催で行われた。

 大統領をはじめとする公人が参列するのは、もちろん今回が初めてではない。

 儀式の宗教性についても、「当然、宗教的なものです。『追悼』は必ずしも宗教や祈り、あるいは精神性に基づく必要はありませんが、『祈り』は宗教的行為以外の何ものでもありません」と同カテドラルではコメントしている。

 それなら、なぜこの場所なのか。「国家的目的に使用される教会」だからなのか。

 合衆国内の教会はすべて法的には一宗教法人に過ぎず、政府からの援助を受けることは本来、あり得ない。今回の儀式を催すに当たっても、必要な経費はすべてカテドラル側が負担したことになっている。

 しかし実際はホワイトハウスから依頼があり、費用も教会職員の支出に対して、政府が実費を負担するといふ形で支払いが行われた。

 これは、靖國神社で政府の呼びかけによる祭典が行はれ、政府高官や諸宗教の代表者が参列するというようなことに相当する。アメリカではこれが以前から行われてきた「政教関係」の現実なのだ。

 これまでアメリカは「厳格な政教分離国」といわれてきた。その理由は一七九一年に追加された合衆国憲法修正第一条にある。そこでは国教を認めないことと、国民の宗教上の自由な行為が保障されている。

 しかし、現実には、連邦政府は一宗教法人に対し宗教的儀式の開催を依頼し、調節的な形を避けながらも費用を負担している。

 果たして、これは合衆国憲法が定める「厳格な政教分離」に違反することにはならないのか。

 カテドラル側はしかし、即座に否定する。そして、「合衆国の重要な原則である『国家と教会の分離』に抵触するものではありません。憲法修正第一条は祈りを禁じているわけではありません。禁じられているのは、国家が国民に祈りを強制することです」と国家の祈りを肯定するのだ。


◇靖國神社国家祭祀の可能性

 戦後日本に輸入された「政教分離」という法律用語は、時に極めて厳格に受け止められ、完全な政治と宗教の分離が主張されてきた。

 しかし、この用語は欧米では、「Separation of State and Church」、すなわち「政治と宗教」ではなく「国家と教会の分離」を意味している。そのような法律理論に基づいて、今回のカテドラルでの宗教儀式は行われている。

「政治と宗教を厳格に分離する国アメリカ」のこうした知られざる実態は、翻って日本の首相による靖國神社参拝はもちろんのこと、官民挙げての靖國神社での祭祀に、むしろ道を開くものといえないか。

 アメリカでは宗教者も、政治家も、官僚も、国を挙げて国難に殉じた死者たちのために心からの祈りを捧げる。

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