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「愛子さま天皇」か旧皇族復帰か、皇位継承問題を単純化する現代人の3つの病理 [皇位継承]


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「愛子さま天皇」か旧皇族復帰か、皇位継承問題を単純化する現代人の3つの病理
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さて、今日は三題噺を書きます。無機質論的な議論への違和感、性急に解決法を求める悪癖、議論の主体の不在の3つ。ひとまとめにするなら、現代人の病理というようなものでしょうか。


▽1 Y染色体の維持が目的ではあり得ない

皇位継承問題に関する最近の議論を眺めていて、唐突ながら、思い出したことがあります。韓国宮廷料理研究の第一人者で、韓国の人間国宝・黄慧性(ファン・ヘソン。故人)さんの鋭い指摘です。

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以前、韓国文化専門家の友人の案内でソウルを旅したとき、かつて朝鮮神宮が鎮まっていた南山の頂上にある韓国宮廷料理専門店で、夜の宴がありました。主賓は友人が「母」と慕う黄さんでした。黄さんの存在なくして韓国宮廷料理研究はなく、このお店の存在も同様でした。

このとき優雅なチマチョゴリを召した黄さんが教えてくれた、もっとも心に残っているお話は、「最近の研究者は栄養学的な視点ばかりで宮廷料理を研究したがる」というじつに興味深い指摘でした。

宮廷料理は朝鮮半島全域から食材が集められ、調理されます。国王1人では食べ切れるはずもない数々の料理がテーブルに並ぶのですが、それは国王の食事が実際に食べるというより、国王が全国土を支配するという、儒教的な精神と不可分一体の儀礼だからなのでした。

ところが、最近の研究者たちは、精神的側面には見向きもせず、やれタンパク質がどうだ、ビタミンがどうだという議論に終始し、満足している。それでは宮廷料理を理解することにはならないだろうというのが黄さんの嘆きでした。三大栄養素などを摂取することが国王の食事ではないからです。無機質的レベルに還元して、儒教精神に立脚する韓国王制を理解することはできないからです。

最近の皇位継承論議にも似たようなところがあります。たとえば男系固持派の八木秀次さんが言い出したY染色体論です。多くの男系派の心を捉えていますが、皇位が男系男子で継承されてきたのなら、男子の性染色体が受け継がれるのは理の当然とはいえ、男系による皇位の継承はY染色体の維持が目的ではあり得ません。

要は生物学的に理解が早いということであって、あくまで結果に過ぎません。逆にY染色体の維持が目的なら、遺伝子操作でもいいのか、という極論も成り立ちます。天皇は遺伝子の塊ではないのです。

以前、雑誌「正論」に書きましたが、大和言葉の「ち」(地、血など)にはAとBとをつなぎ、どこまでも続いていくという意味があります。また、「ち」は「し」(霊)と同義であり、血統=霊統なのだといわれます。霊統たる皇統はY染色体で説明できるでしょうか。

 【関連記事】伝統主義者たちの女性天皇論──危機感と歴史のはざまで分かれる見解(「論座」平成16年10月号から)https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2004-10-01
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男系継承にどのような深い基本的理念が込められているのか、天皇統治の歴史的あり方そのものが深く探求されないのなら、韓国宮廷料理研究が栄養学的分析に留まっているのと大して変わらないことになりませんか。逆に、男女平等の普遍的原則を掲げる女系継承容認派の方が、はるかに理念的であるのはなんと皮肉なことでしょう。男系派こそ理念的であるべきなのに。

 【関連記事】憲法の原則を笠に着る革命思想か。ジェンダー研究者の女性天皇論を読むhttps://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2020-02-22


▽2 当事者たる皇室が蚊帳の外に置かれる論外

じゃあ、どうするのか、反論がすぐさま聞こえてきそうです。

そうなのです。現代人は自分では考えずに、まるで水道の蛇口をひねるかのように、スマホの画面をタップするかのように、すぐに、簡単に、しかもタダで、他人から答えを引き出そうとします。2つ目の問題はそれです。

必要なのは結論だけで、思考の過程は問われませんから、即答を渋ると、動きの悪いPCのように、途端に嫌われます。Twitterのように、短文で、右が左かという単純な議論がウケることになります。自分の好みに合わないなら、即座に捨てられます。

案の定、皇位継承問題は「愛子さま天皇」を認めるか、旧皇族の復帰かという二者択一の議論となってきました。選択肢はほかにないのでしょうか。

3つ目の問題として、なんとも恐ろしいことに、議論の主体となるべき皇室の姿がどこにも見当たりません。皇室問題なのに当事者たる皇室が排除されています。まったくあり得ません。

今回の議論は平成8年ごろ、宮内庁内で非公式の検討が開始されたというのが起点でした。やがて公式研究に代わり、有識者会議なども開かれましたが、皇族方の意見は一切排除されました。羽毛田長官が異論を述べる寛仁親王の口封じをしたことは記憶に新しいところです。論外です。

 【関連記事】〈第1期〉「皇統の危機」を背景に非公式研究開始 ──4段階で進む「女性宮家」創設への道https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2017-09-23
 【関連記事】皇統を揺るがす羽毛田長官の危険な〝願望〟(「正論」平成21年12月号から)https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2009-12-01-2

つまり、政府・宮内庁が20数年、研究と議論の対象としてきたのは、126代の皇位継承ではなく、2.5代の皇位継承なのです。国事行為のみ行うのが天皇なら、男女の別は当然、問われません。「世襲」なら男でも女でもいいという結論になります。

憲法の国民主権主義に立脚する象徴天皇の法的地位は、あくまで国民の総意に基づくのであって、したがって皇族方が議論に参加することは許されません。天皇は国政に関する権能を有しないというのが憲法の規定であり、憲法こそ最高法規です。

そして、案の定、保守派と革新派、女帝容認派と否認派が入り乱れて、甲論乙駁の論争が展開されています。議論の中心であるべき皇室はむろん徹頭徹尾、蚊帳の外です。

皇室の伝統が大切だと訴える男系派なら、判断は皇室にお任せすべきだと主張してもいいはずなのに、どうもそうはなりません。国民主権の考え方や憲法第一主義に誤りがあると指摘する憲法学者がいてもいいはずなのに、改憲論といえば9条のテニヲハを変えるぐらいの議論しか聞こえてきません。国家百年の計、千年の計に立つ議論ができないのです。

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国民主権論に立ち、国民的議論を煽る女系容認派に、同じ土俵に引き込まれ、引きずられて、ピエロのごとく踊らされっ放しなのが、いまの男系派の悲しき実態です。

言論は自由ですから、議論は大いにあっていいでしょうが、より本質的で、客観的で、建設的で、慎重な、そしてけっして感情的にならない、「君子の論争」が心から望まれます。そして最後の結論は、国民が出すのではなく、皇室のご判断を仰ぐべきであって、そのための国民的論争であるべきだろうと私は考えますが、いかがでしょうか。

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