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八木秀次先生、やはり「男系継承」の本質が見えません──有識者ヒアリングのレジュメ+議事録を読む 3 [有識者会議]

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八木秀次先生、やはり「男系継承」の本質が見えません──有識者ヒアリングのレジュメ+議事録を読む 3
(令和3年4月25日、日曜日)
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前回の続きです。


▽5 八木秀次氏──意気込みは相当だが

4月8日のヒアリングで、5番目に現れたのは八木秀次・麗澤大学教授(憲法学)だった。櫻井よしこ氏や新田均氏と並ぶ男系固守派の代表格である。八木氏は17ページにわたるレジュメを用意した。レジュメは「第一部 議論の前提」「第二部 聴取項目」「終わりに」の3部構成で、さらに5ページにおよぶ手書きの「天皇系図」が付されている。相当の意気込みが感じられる。〈https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai2/siryou6.pdf

このブログでは前回まで、公表されたレジュメからヒアリングの中身を類推したが、先週になって「議事の記録」が官邸のサイトに掲載されるようになったので、今回はこの議事録に従って八木氏の訴えをなぞっていくことにする。

八木氏はレジュメに従い、聴取項目に答える前に、まず「議論の前提」として、以下の7点について説明している。

1 「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」についての検討は皇位継承問題と一体不可分である
2 「安定的な皇位継承を確保する」ことは、どんな時代にも難しい問題であり続けている
3 明治以降、(a)増えすぎた皇位継承資格者を減少させ、一定数の皇位継承資格者にとどめる策と(b)少なすぎる皇位継承資格者を増加させ、一定数の皇位継承資格者を確保する策との間で激しい振幅があった
4 直系継承だけで男系継承を続けるのは極めて難しい──傍系継承の役割
5 皇位継承を支えた側室の役割
6 皇位継承の歴史を踏まえたおおよその結論
7 女性天皇や女系継承、女性宮家が適当でなく、男系継承が現行憲法で許される理由

ポイントを以下、拾い読みすることにする。


◇常識的な歴史理解

初代天皇以来、一貫して一度の例外なく男系で継承されている。女系は天皇・皇族としての正統性が問われる。女系継承を認めると、天皇・皇族と一般国民との間に質的な違いはなくなる。
皇位継承問題を一般国民の家の継承と混同してはならない。皇位継承は血統原理に基づいている。
過去に8人10代の女性天皇が存在しているが、女系継承を意味するものではない。
女系が皇位に就いた例はなく、皇族になった例もない。
男系継承は、少なくとも1,700年以上、例外なく続いている。歴史の積み重ねの重みは軽くない。
「安定的な皇位継承を確保する」ことは、どんな時代にも難しい問題であり続けている。
明治22年の皇室典範では臣籍降下の規定を設けない「永世皇族制」となっている。政府としては、皇族の増加が予想されることから臣籍降下の規定を設けたいが、明治天皇の皇位継承への不安から臣籍降下の規定は設けなかった、といわれている。
明治40年に臣籍降下を可能にする「皇室典範増補」が施行された背景には、皇位継承への不安が払拭されたということがあったようだ。しかし、臣籍降下は1人にとどまっている。
大正9年、「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」を設け、世数による臣籍降下をすることにした。情願がなくても臣籍降下ができるようになり、先の大戦終結までに12人の皇族が臣籍降下した。
戦後の皇室典範では「永世皇族制」とし、臣籍降下の規定を設けなかった。その直後、傍系宮家、すなわち伏見宮系の宮家の強制的な臣籍降下が昭和22年に行われ、11宮家51方が皇族の身分を離れた。しかし、直宮だけの永世皇族制は、行き詰まろうとしている。
直系継承だけで男系継承を続けるのは極めて難しいので、歴史上、何度も傍系継承があった。傍系継承が、男系継承の安全装置となっている。
光格天皇が現在の皇室の直系の祖先で、以後、直系で継承されている。これだけ長い期間、直系で継承されたというのは、皇位継承の歴史の中では、極めて稀有な例である。
光格天皇が即位するに当たって、伏見宮の第19代貞敬親王も後継候補に名が挙がっていた。第102代後花園天皇が伏見宮の出身、第119代光格天皇が閑院宮の出身である。
伏見宮系の宮家は、明治天皇、大正天皇、昭和天皇を支え、天皇の内親王の結婚相手ともなっている。皇太子妃、後に皇后となった例として、香淳皇后の例がある。
かつては乳幼児期の死亡率が極めて高く、安定的な皇位継承策のために、複数の「妻」が子どもを産む必要があったが、今日では医療技術の進歩により解消されている。側室を考える必要はない。

以上の「前提」はきわめて常識的な理解であろう。なんの異存もない。


◇126代「祭り主」天皇への言及もない

八木氏はこれらの「前提」を踏まえて、「おおよその結論」として、皇位の男系継承は確立された譲り得ない原理であり、その安全装置としての傍系継承や傍系皇族の存在の意義を考えるべきである。具体的には、旧11宮家の男系男子孫を皇族に復帰させる方策を検討すべきである。皇族としての正統性はあると考えられる。現在の皇室との血縁が遠いとの指摘もあるが、初代天皇の男系の血統を純粋に継承していることが正統性の根拠であるなどと指摘している。

また、現行憲法、皇室典範制定当時、宮内省や法制局が、皇統を男系に限り、女性天皇・女系継承を認めないことが憲法違反にあたらないことについて、当時の資料を示していることは注目される。

要するに、八木氏の主張の根拠は歴史と伝統にある。皇位の継承は男系で貫かれてきた。まったくその通りである。それなら、なぜ男系継承なのか、男系で継承されるべき皇位の本質とは何か、である。現代人にとっても大きな価値あるものとして、説得力をもって説明されているのかどうかである。

それがなければ、何度も書いてきたことだが、現行憲法を最高法規とし、憲法に基づいて国事行為およびご公務をなさるのが天皇のお役割だと信じ、同時に国民主権主義によって皇位継承の原理を変革し得ると思い込んでいる現代人には伝わらないのではないか。

八木氏は、ヒアリング後半の「聴取項目」への回答で、「天皇の役割・活動については、国事行為、公的行為、その他の活動があり、また、伝統的に民の父母としての役割があると考えられる」と述べるにとどまっている。けっして十分とはいえまい。

八木氏には126代「祭り主」天皇への言及もない。女帝が否認されたのではなくて、夫があり、妊娠中・子育て中の女帝が否認されてきたことへの問題関心も、ヒアリングではうかがえなかった。

八木氏は「終わりに」で、「本質的な問題が突きつけられている」ことを指摘し、警鐘を乱打している。すなわち、憲法学者の奥平康弘氏ら天皇制廃絶論者が女系継承容認を煽っているという事実なのだが、だとすればなおのこと、男系派が現代にも通じる男系継承主義の本質的意義と価値を見出し、国民に提示することなくして、「本質的な問題」を克服していくことは不可能だと思う。


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